Federal Reserveとお金の流れ
by Minoru Ueda, CPA、CGMA
お金の話です。
これほど私たちの日常生活と密接な関係がありながら、今ひとつ、あまりにも大きすぎて見えないのがお金の流れです。
この國のお金はどのように市場供給されるのか、所謂、money supplyとそれがどう増幅されていくのかそのプロセスを帳簿というアングルから説明してみたいと思います。テレビのNewsでもInternet上でもFederal Reserveと呼ばれる米国の中央銀行が経済を語るとき話題の中心です。それでいてFEDと呼ばれる銀行が我々とどう関わっているのかを直接感じません。でも、お金の世界はそれを(借りる人・会社)、(預ける人・会社)、(市中銀行)そして(Federal Reserve Bank)=(中央銀行)の4組の世界なのです。案外、人が読まないのが中央銀行の帳簿です。簡単に書きます。
米国中央銀行のバランス・シートの概略
1/30/2013(単位:百万)
資産 負債
債権 $1,710,058 Currency in circulation
Discount loans $1,281,068 (出回っているお金) $1,154,864
そのほか $ 61,114 Reserve (リザーブ勘定) $1,632,732
Repo ………………………………..$92,919
Treasury cash $184
Deposits(預け金) $103,842
その他 $65,576
計 $3,050,117
合計 $3,052,240
以上が概略ですが、資産側を見ますと、米国債の割合が資産の56%,市中銀行への割引ローンが約42%です。そして負債側は出回っているお金の比率が負債全体の約38%, 市中銀行との相対勘定項目 ”リザーブ勘定”が約54%ですから、以下、中央銀行のお金の流れの説明はこの4勘定項目で充分であると思います。債権(securities), Discount loans, 市場に出回っているお金(currency in circulation), and リザーブ( reserve)です。
Currency in circulation(市場に出回っているお金)、この勘定項目が負債側にあるのにお気づきですか?何かおかしいですよね。これは次のような理由であると私は考えています。先ず、お金を印刷しているのは造幣局です、そして造幣局はTreasury Department(財務省)の管轄下、その1部門です。その財務省で作られたお金をdistribute (配る)のがFederal Reserve(中央銀行)の仕事です。しかし中央銀行は國の機関ではありません。私的な機関であります。尤も、12ある中央銀行の内の最高責任者の7名は米国大統領が任命するのですから、これを完全な私的機関と呼ぶのは間違っていると思います。しかし財務省のお金を独立した機関が配る役割ですから、これは人の物を預かって、配るのですからこれは負債です。しかし借りている訳ではありませんから金利は払いません。当然、中央銀行の資産でもありません。それから細かいと思われるかも知れませんがFederal Reserve の報告書の原文には、お金を配ることをdistributeという動詞を使って表現しています。一部の経済書並びに大手の新聞にはissueという動詞を使っているのを多く見うけますが、間違った表現だと思います。また、その昔、現在の紙のお金は金との交換を約束されていた時代もありましたから、そこにもいくらかの負債性が見られますが正しい答えではないと考えます。またこの出回っているお金の大半は米国内ではなく外国にあるのですが、これは本題とは関係ありません。中央銀行の収入源は国債と銀行への割引ローンの金利収入です。これらの収入はほとんど全て財務省に差し出します。ですから私的機関とは言えません。
これがこれから説明しますfederal reserve system (米国中央銀行)のバランス・シートの重要な部分です。
米国中央銀行バランス・シートの一部
資産 負債
国債 $$$$
(Government securities) 市場に出回っている貨幣$$$
(Currency in circulation)
割引ローン$$$$
(Discount loans) リザーブ $$$
(Reserve)
そして負債の部分がよく新聞などで云われるマネーサプライといわれ、このどちらかの勘定項目のバランスが増えれば、市場のマネーサプライが増加したことになります。そして財務省の負債勘定項目(treasury currency in circulation)市場に出回っているコインと上記の市場に出回っている貨幣とリザーブの3っの勘定項目の残高を総称してmonetary base,日本語でマネー・ベースと呼びます。又財務省のコインは額として全体の10%位ですから、マネー・ベースと雑誌・新聞やテレビに出ましたら、先ず市場に出回っている貨幣勘定とリザーブ勘定を考えて下さい。
一方、相手となる市中銀行のバランスシートの簡単な説明をします。通常、以下のような比率であると考えて良いと思います。
市中銀行のバランス・シート概略
資産 負債と資本
リザーブ 5% 当座預金 9%
債権投資 25% 中長期預金勘定 56%
貸出金勘定 64% 借用金勘定 28%
その他 6%
計 93%
資本金 7%
計 100% 計 100%
上に当座預金と書きましたがcheckable depositsとmoney market depositsと呼ばれ、預金者が銀行で引き下ろそうとすれば、直ちにそれに応じなければならない口座預金を指します。日本で云えば自動支払機に入っているお金などです。中長期デポジットとしましたのはnontransaction depositsと呼ばれ、CDとか貯金を意味します。これが銀行の主要なファンドです。また銀行はお金の供給源として中央銀行から借り入れます、これをdiscount loans又はadvanceと呼びます。同時にfederal fundマーケットを通して他の銀行からも借りることが出来ます。資本ですがこれは新株を売ったり、利益剰余金からです。
以上が概略ですが、中央銀行やマネー・ベースの説明で重要になるのは以下の勘定項目です。
中央銀行と市中銀行との関係
色々ありますが根本的には:
“中央銀行は財務省に代わって貨幣を配達します。貨幣は財務省が印刷します。市中銀行は顧客の要望に応じて中央銀行から貨幣を買います、そして市中銀行は顧客の要望より余剰に手持ちが出来たとき、中央銀行にその余剰分を預けます。”
リザーブとは:
引当金と解釈するよりは準備金、積立金と解釈されるべき性格の勘定です。どの銀行も中央銀行に口座があり、そこにディポジットを持っています。そして各銀行は銀行の金庫に中に現金を持っている。このディポジットと金庫の貨幣を併せてリザーブと呼びます。リザーブは銀行の資産であり中央銀行の負債です。銀行はこのデポジットの支払い要求をすることが出来、中央銀行もすぐさま、要求に応じなければならない。このリザーブは2種類のリザーブから構成されている。一つは中央銀行が各銀行に義務づけているリザーブ、これをrequired reserveとよび、銀行が任意に要求が以上の額を持っていればそれをexcess reserveと呼びます。例えば中央銀行の各銀行への義務付けは預金者のデポジット1ドルにたいして10%のリザーブとしている。中央銀行はこの各銀行からのリザーブには金利を支払わない事になっている。リザーブの額が上がると云うことは預金が増加したことですから、マネーサプライが増加したことにつながります。例えばAさんがB銀行に$100の預け金をしました。
仕訳はこのようになります。
Aさんの家計簿
資産 負債
現金 ―$100
預金 +$100
B銀行
資産 負債
義務リザーブ + $10 預金勘定 +$100
超過リザーブ +$90
中央銀行
資産 負債
市場出回り現金 ―$100
リザーブ +$100
つまり、Aさんが現金を枕の下から取り出して、銀行に預金をしたということは中央銀行の市場に出回っている現金がその額、減少し、中央銀行にとって負債となるリザーブがその額、増加したということです。ということは市中銀行の資産であるリザーブがその額、増加し、Aさんのお金を預金としてあづかったわけですから、その額だけAさんに対しての負債が、借金が増えました。つまり、我々、市民の資産行動は中央銀行の負債行動に相対します。
資産勘定の説明
Government securitiesとdiscount loansの重要点はこれらの資産は金利を稼ぐ点にあります。先に述べましたように負債勘定では金利を払いません。従って中央銀行は莫大な金利を稼ぎます。この稼ぎのほとんどは連邦政府に支払われます。
Government securitiesとは:
財務省の代わりに国債の売り買いするのは政府の銀行役をする中央銀行(federal reserve bank)です。それを銀行や法人や個人が買います。
Discount loansとは:
中央銀行はdiscount loansを銀行に提供する事により銀行というシステムにreserveを提供しているのです。リザーブが増えれば、それだけ銀行は貸し出しや投資が出来るわけですから、マネー・ベースは増加します。
マネー・ベースとは:
従ってマネーベースをMBと省略し、負債側のcurrency in circulation (市場に出回っているお金)をC, reserveをRとすればMB=C + R、これがマスコミのいうmonetary base、マネー・ベースです。中央銀行は一般市場で資産側にある国債を売買したり、同じく資産側にあるdiscount loans を銀行に提供することによりMBを、つまりCとRを操作しているのです。この操作をマスコミはopen market operation,市場介入と呼び、中央銀行が市場から国債を買う事をopen market purchaseとよび、売りをopen market saleと呼びます。市場介入の売り買いと云われても実際のお金の動きはわかりません。これをわかりやすく会計手法の取引勘定で表示します。
Open market purchaseとは:
銀行が手持ちの国債を中央銀行に$100で売りました。言い方を変えれば、中央銀行が国債の買い取りを$100でしました。銀行の国債が$100減り、中央銀行の資産側の国債勘定が$100増え、同時に銀行のリザーブ勘定が$100増加し、中央銀行のこの銀行に対しての負債勘定 リザーブが$100増えました。銀行のリザーブが増えたと云うことはマネーベースが増加したということです。要するに中央銀行と銀行間のやりとりはリザーブ口座を操作するだけです。これをopen market purchase(買いの市場介入)と呼ばれています。
銀行の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
リザーブ プラス $100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ+ $100
それでは銀行とではなく、中央銀行の一般との取引、つまり市民や法人との取引を帳簿で示します。ある人が又はある法人が国債を、直接、中央銀行に売却しました。
家計簿又は会社の帳簿
資産 負債
国債 マイナス $100
銀行口座 プラス$100
そして国債を売った入金を自分の銀行口座に入金しました。銀行は直ちに口座入金を中央銀行に伝えます、小切手であれば、それを送り、clearします。
銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 お客様口座 +$100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ +$100
上の例は売却のお金が銀行に振り込まれた場合ですが、例えば振り込まずにその場で現金化したとなれば下記のようになります。
家計簿又は法人の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
現金 プラス $100
中央銀行
資産 負債
国債 +$100 市場に出回っているお金+$100
以上のように、中央銀行が国債を買うという事は市場に出回っているお金の量が増加することです。銀行もリザーブが増加し、それだけ貸し出しが多く出来るわけですからお金の流通量は増加します。
Open market sale、オープン・マーケット・セールとは:
中央銀行が国債を一般庶民に売りました。
庶民や法人の帳簿
資産
国債 +$100
現金 ―$100
現金が国債に姿を変えてしまいました。現金が市場から$100だけ少なくなりました。従って、中央銀行はこの事実を帳簿に表しています。手持ちの国債を売りましたから国債はマイナス$100,出回っていた貨幣も国債に姿を変えましたので、これもマイナス$100です。
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 ―$100 出回っている貨幣 ―$100
国債を中央銀行が売るという事は市場の、currency in circulationが減ると云うことですから、monetary base (マネーベース)が少なくなる、減ると云うことです。これがオープン・マーケット・セールです。
それでは、国債とは関係なく、一般庶民や法人が銀行からお金を引き出した場合の変化を見てみます。預金からおろして、現金化しました。
庶民や法人の帳簿
資産 負債
銀行預金 ―$100
現金 +$100
銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ ―$100 お客様口座預金 ―$100
銀行が少し小さくなりました。資産も負債も両方とも減りました。とすると、銀行を仕切っている中央銀行は?
中央銀行の帳簿
資産 負債
市場に出回っているお金 + $100
リザーブ ―$100
銀行の資産のリザーブ勘定が減少したという事は中央銀行の負債のリザーブ勘定も連動して減りましたが、市場に出回っているお金はプラスの$100ですから増減相殺でmonetary base(マネーベース)には変化はありません。従って、銀行から預金者が現金をおろすと云うことはマネーベースには変化が起こらないということが説明出来たと思います。当然と思われる事ですが、これが方程式です。
Discount loan とは:
(割引ローン)
中央銀行が市中銀行に貸し出すローンです。ここでは$100、貸し出しとします。
中央銀行の帳簿
資産 負債
Discount loans +$100 リザーブ +$100
相手の銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 Discount loans +$100
そうすると中央銀行の負債勘定リザーブも同金額増加します。したがってマネー・ベースもそれだけ増加したわけです。逆も全く同じ事が起きます、無論(+)を(-)に置き換えるだけですが、それにより市場のマネー・ベースは小さくなるわけです。
Floatとは:
フロートの意味を説明します。
現在ではクレジットカードでの支払いが常識的になりましたがアメリカでは自分の小切手を現金代わりに発行します。一例を挙げますとAさんが自分の銀行に行き小切手を一枚書き、$100現金化したとします。そうすると銀行の帳簿は:
銀行の帳簿:
資産 負債
リザーブ ―$100 預金勘定 ―$100
ところが、中央銀行は銀行からの小切手をクレアーするときに、一旦、下記の仕訳を起こします。
中央銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100
帳簿がバランスをしていません。実際は下記の仕訳を起こさなければならないのですが:
資産 負債
市場現金 +$100 リザーブ勘定 ―$100
この$100だけ多くなっている期間をフロートと呼びます。この期間、マネーベースが間違って過剰に報告されることになります。同時にその取引銀行の口座残高も多く記帳されていることになります。同じようなことが米国財務省が市中銀行から預金を移行するときにも同じようなフロートが起きると云われています。言葉では難解な表現も図では理解が早いと考えます。
Multiple deposit creation とは:A Hat-trick
ようやく、この原稿の本論に入ります。
中央銀行がA銀行から国債を買い取りました。余分なリザーブが手に入ったことになります。A銀行は過剰リザーブのみ、貸し出しや投資に使えます。リザーブは金利を生みませんから、A銀行は本業の貸出先を探します。ここでは$100全額を過剰リザーブだったとします。
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
リザーブ プラス $100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ + $100
ここでA銀行が顧客に貸し出しをします。銀行が貸し出しをするとき、銀行は先ずその貸出先の預金勘定を作ります。そこにお金を振り込み、そこから貸し出すと云うのがシナリオです。従って負債側に預金勘定が出来上がります。前にも指摘しましたように、プラスの預金勘定はマネー・サプライが増加したことになります。中央銀行ではなく、銀行が貸し出しをしたという行為がお金の供給を市場に作り出した事になります。
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 ー$100 預金勘定 +$100
リザーブ +$100
貸出金勘定 +$100
この時点で、このA銀行は余分のリザーブがありますから、さらなる貸し出しを考えますが、お金を借りた人はそれを使うために借りたわけですから、そのお金は物やサービスへと形を変え、それらを提供した人や法人の銀行にデポジット(振り込み)されるわけですから、結果、先のA銀行の帳簿は預金勘定は引き出され、:
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 ―$100
貸出金勘定 +$100
ということになります。国債が貸し出し預金に姿を変えたのですが、最初を振り返ると、リザーブの増加は貸し出しを可能にさせ、さらに貸し出されたお金は次の銀行に振り込まれ、新たなるリザーブを創り出します。次の銀行をB銀行としますとB銀行の帳簿は:
B銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 預金勘定 +$100
リザーブは金利を生みませんから、ここで又B銀行が貸し出しをしたとします。しかし規約に従い、10%は保留されなければなりませんから、
B銀行の帳簿
資産 負債
義務リザーブ + $10
超過リザーブ +$90 預金勘定 +$100
ここで又B銀行が貸し出しをします。
資産 負債
リザーブ +$90 預金勘定 +$90
この内訳は:
資産 負債
義務リザーブ + $9
貸し出し勘定 +$81 預金勘定 +$90
そしてC銀行:
資産 負債
リザーブ +$81 預金勘定 +$81
そして貸し出し:
資産 負債
義務リザーブ + $8.10
貸し出し勘定 +$72.90 預金勘定 +$81
$100で始まった預金勘定口座の残高は:
bank 預金勘定
A $100
B 90
C 81
D 72.90
計 $ 343.90
4銀行で約3.5倍と膨れあがりました。この現象をmultiple deposit creationと云います。
要するに100 + 100x0.90 + 100 x 0.90 x 0.90 + 100 x0.90x0.90x0.90 + + + + +=100x1/1- .0.90 = 100 x 1/0.10 = 100x10 =1,000
理論的には預金勘定の最終計は約$1,000ということになります。という事は預金勘定と一対一で対比する貸し出し勘定も最終の合計金額は$1,000であり、義務リザーブはその10%でありますから、合計は$100になります。この100を100兆とするならば、中央銀行がQEとして銀行から買い取った国際100兆円は、実際、市場では銀行から銀行を経て、1000兆円のお金が市場に流れることができるのです。何気なく報道される中央銀行の市場介入とは、まさに”hat trick"ではありませんか。
無論、この現象は貸し出しが連続的に次ぎから次ぎへの銀行に移行しているという理論に基づいての現象を示しているだけで、現実的には最初のA銀行又はB銀行で貸し出しはなく、預金勘定のmultipledeposit creationはそこで終わってしまうことになります。ただ、requiredリザーブが10%ということが$100を最終的には$1,000の預金勘定残高を理論的には生みうるということを知っておく価値はあると思います。この3年間、印刷され続けたお金の量は可能性としてはその10倍になりうるということです。無論、リザーブを10%とした条件ですが。
以上です。
By:上田 稔( ウエダミノル)、CPA, CGMA
by Minoru Ueda, CPA、CGMA
お金の話です。
これほど私たちの日常生活と密接な関係がありながら、今ひとつ、あまりにも大きすぎて見えないのがお金の流れです。
この國のお金はどのように市場供給されるのか、所謂、money supplyとそれがどう増幅されていくのかそのプロセスを帳簿というアングルから説明してみたいと思います。テレビのNewsでもInternet上でもFederal Reserveと呼ばれる米国の中央銀行が経済を語るとき話題の中心です。それでいてFEDと呼ばれる銀行が我々とどう関わっているのかを直接感じません。でも、お金の世界はそれを(借りる人・会社)、(預ける人・会社)、(市中銀行)そして(Federal Reserve Bank)=(中央銀行)の4組の世界なのです。案外、人が読まないのが中央銀行の帳簿です。簡単に書きます。
米国中央銀行のバランス・シートの概略
1/30/2013(単位:百万)
資産 負債
債権 $1,710,058 Currency in circulation
Discount loans $1,281,068 (出回っているお金) $1,154,864
そのほか $ 61,114 Reserve (リザーブ勘定) $1,632,732
Repo ………………………………..$92,919
Treasury cash $184
Deposits(預け金) $103,842
その他 $65,576
計 $3,050,117
合計 $3,052,240
以上が概略ですが、資産側を見ますと、米国債の割合が資産の56%,市中銀行への割引ローンが約42%です。そして負債側は出回っているお金の比率が負債全体の約38%, 市中銀行との相対勘定項目 ”リザーブ勘定”が約54%ですから、以下、中央銀行のお金の流れの説明はこの4勘定項目で充分であると思います。債権(securities), Discount loans, 市場に出回っているお金(currency in circulation), and リザーブ( reserve)です。
Currency in circulation(市場に出回っているお金)、この勘定項目が負債側にあるのにお気づきですか?何かおかしいですよね。これは次のような理由であると私は考えています。先ず、お金を印刷しているのは造幣局です、そして造幣局はTreasury Department(財務省)の管轄下、その1部門です。その財務省で作られたお金をdistribute (配る)のがFederal Reserve(中央銀行)の仕事です。しかし中央銀行は國の機関ではありません。私的な機関であります。尤も、12ある中央銀行の内の最高責任者の7名は米国大統領が任命するのですから、これを完全な私的機関と呼ぶのは間違っていると思います。しかし財務省のお金を独立した機関が配る役割ですから、これは人の物を預かって、配るのですからこれは負債です。しかし借りている訳ではありませんから金利は払いません。当然、中央銀行の資産でもありません。それから細かいと思われるかも知れませんがFederal Reserve の報告書の原文には、お金を配ることをdistributeという動詞を使って表現しています。一部の経済書並びに大手の新聞にはissueという動詞を使っているのを多く見うけますが、間違った表現だと思います。また、その昔、現在の紙のお金は金との交換を約束されていた時代もありましたから、そこにもいくらかの負債性が見られますが正しい答えではないと考えます。またこの出回っているお金の大半は米国内ではなく外国にあるのですが、これは本題とは関係ありません。中央銀行の収入源は国債と銀行への割引ローンの金利収入です。これらの収入はほとんど全て財務省に差し出します。ですから私的機関とは言えません。
これがこれから説明しますfederal reserve system (米国中央銀行)のバランス・シートの重要な部分です。
米国中央銀行バランス・シートの一部
資産 負債
国債 $$$$
(Government securities) 市場に出回っている貨幣$$$
(Currency in circulation)
割引ローン$$$$
(Discount loans) リザーブ $$$
(Reserve)
そして負債の部分がよく新聞などで云われるマネーサプライといわれ、このどちらかの勘定項目のバランスが増えれば、市場のマネーサプライが増加したことになります。そして財務省の負債勘定項目(treasury currency in circulation)市場に出回っているコインと上記の市場に出回っている貨幣とリザーブの3っの勘定項目の残高を総称してmonetary base,日本語でマネー・ベースと呼びます。又財務省のコインは額として全体の10%位ですから、マネー・ベースと雑誌・新聞やテレビに出ましたら、先ず市場に出回っている貨幣勘定とリザーブ勘定を考えて下さい。
一方、相手となる市中銀行のバランスシートの簡単な説明をします。通常、以下のような比率であると考えて良いと思います。
市中銀行のバランス・シート概略
資産 負債と資本
リザーブ 5% 当座預金 9%
債権投資 25% 中長期預金勘定 56%
貸出金勘定 64% 借用金勘定 28%
その他 6%
計 93%
資本金 7%
計 100% 計 100%
上に当座預金と書きましたがcheckable depositsとmoney market depositsと呼ばれ、預金者が銀行で引き下ろそうとすれば、直ちにそれに応じなければならない口座預金を指します。日本で云えば自動支払機に入っているお金などです。中長期デポジットとしましたのはnontransaction depositsと呼ばれ、CDとか貯金を意味します。これが銀行の主要なファンドです。また銀行はお金の供給源として中央銀行から借り入れます、これをdiscount loans又はadvanceと呼びます。同時にfederal fundマーケットを通して他の銀行からも借りることが出来ます。資本ですがこれは新株を売ったり、利益剰余金からです。
以上が概略ですが、中央銀行やマネー・ベースの説明で重要になるのは以下の勘定項目です。
中央銀行と市中銀行との関係
色々ありますが根本的には:
“中央銀行は財務省に代わって貨幣を配達します。貨幣は財務省が印刷します。市中銀行は顧客の要望に応じて中央銀行から貨幣を買います、そして市中銀行は顧客の要望より余剰に手持ちが出来たとき、中央銀行にその余剰分を預けます。”
リザーブとは:
引当金と解釈するよりは準備金、積立金と解釈されるべき性格の勘定です。どの銀行も中央銀行に口座があり、そこにディポジットを持っています。そして各銀行は銀行の金庫に中に現金を持っている。このディポジットと金庫の貨幣を併せてリザーブと呼びます。リザーブは銀行の資産であり中央銀行の負債です。銀行はこのデポジットの支払い要求をすることが出来、中央銀行もすぐさま、要求に応じなければならない。このリザーブは2種類のリザーブから構成されている。一つは中央銀行が各銀行に義務づけているリザーブ、これをrequired reserveとよび、銀行が任意に要求が以上の額を持っていればそれをexcess reserveと呼びます。例えば中央銀行の各銀行への義務付けは預金者のデポジット1ドルにたいして10%のリザーブとしている。中央銀行はこの各銀行からのリザーブには金利を支払わない事になっている。リザーブの額が上がると云うことは預金が増加したことですから、マネーサプライが増加したことにつながります。例えばAさんがB銀行に$100の預け金をしました。
仕訳はこのようになります。
Aさんの家計簿
資産 負債
現金 ―$100
預金 +$100
B銀行
資産 負債
義務リザーブ + $10 預金勘定 +$100
超過リザーブ +$90
中央銀行
資産 負債
市場出回り現金 ―$100
リザーブ +$100
つまり、Aさんが現金を枕の下から取り出して、銀行に預金をしたということは中央銀行の市場に出回っている現金がその額、減少し、中央銀行にとって負債となるリザーブがその額、増加したということです。ということは市中銀行の資産であるリザーブがその額、増加し、Aさんのお金を預金としてあづかったわけですから、その額だけAさんに対しての負債が、借金が増えました。つまり、我々、市民の資産行動は中央銀行の負債行動に相対します。
資産勘定の説明
Government securitiesとdiscount loansの重要点はこれらの資産は金利を稼ぐ点にあります。先に述べましたように負債勘定では金利を払いません。従って中央銀行は莫大な金利を稼ぎます。この稼ぎのほとんどは連邦政府に支払われます。
Government securitiesとは:
財務省の代わりに国債の売り買いするのは政府の銀行役をする中央銀行(federal reserve bank)です。それを銀行や法人や個人が買います。
Discount loansとは:
中央銀行はdiscount loansを銀行に提供する事により銀行というシステムにreserveを提供しているのです。リザーブが増えれば、それだけ銀行は貸し出しや投資が出来るわけですから、マネー・ベースは増加します。
マネー・ベースとは:
従ってマネーベースをMBと省略し、負債側のcurrency in circulation (市場に出回っているお金)をC, reserveをRとすればMB=C + R、これがマスコミのいうmonetary base、マネー・ベースです。中央銀行は一般市場で資産側にある国債を売買したり、同じく資産側にあるdiscount loans を銀行に提供することによりMBを、つまりCとRを操作しているのです。この操作をマスコミはopen market operation,市場介入と呼び、中央銀行が市場から国債を買う事をopen market purchaseとよび、売りをopen market saleと呼びます。市場介入の売り買いと云われても実際のお金の動きはわかりません。これをわかりやすく会計手法の取引勘定で表示します。
Open market purchaseとは:
銀行が手持ちの国債を中央銀行に$100で売りました。言い方を変えれば、中央銀行が国債の買い取りを$100でしました。銀行の国債が$100減り、中央銀行の資産側の国債勘定が$100増え、同時に銀行のリザーブ勘定が$100増加し、中央銀行のこの銀行に対しての負債勘定 リザーブが$100増えました。銀行のリザーブが増えたと云うことはマネーベースが増加したということです。要するに中央銀行と銀行間のやりとりはリザーブ口座を操作するだけです。これをopen market purchase(買いの市場介入)と呼ばれています。
銀行の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
リザーブ プラス $100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ+ $100
それでは銀行とではなく、中央銀行の一般との取引、つまり市民や法人との取引を帳簿で示します。ある人が又はある法人が国債を、直接、中央銀行に売却しました。
家計簿又は会社の帳簿
資産 負債
国債 マイナス $100
銀行口座 プラス$100
そして国債を売った入金を自分の銀行口座に入金しました。銀行は直ちに口座入金を中央銀行に伝えます、小切手であれば、それを送り、clearします。
銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 お客様口座 +$100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ +$100
上の例は売却のお金が銀行に振り込まれた場合ですが、例えば振り込まずにその場で現金化したとなれば下記のようになります。
家計簿又は法人の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
現金 プラス $100
中央銀行
資産 負債
国債 +$100 市場に出回っているお金+$100
以上のように、中央銀行が国債を買うという事は市場に出回っているお金の量が増加することです。銀行もリザーブが増加し、それだけ貸し出しが多く出来るわけですからお金の流通量は増加します。
Open market sale、オープン・マーケット・セールとは:
中央銀行が国債を一般庶民に売りました。
庶民や法人の帳簿
資産
国債 +$100
現金 ―$100
現金が国債に姿を変えてしまいました。現金が市場から$100だけ少なくなりました。従って、中央銀行はこの事実を帳簿に表しています。手持ちの国債を売りましたから国債はマイナス$100,出回っていた貨幣も国債に姿を変えましたので、これもマイナス$100です。
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 ―$100 出回っている貨幣 ―$100
国債を中央銀行が売るという事は市場の、currency in circulationが減ると云うことですから、monetary base (マネーベース)が少なくなる、減ると云うことです。これがオープン・マーケット・セールです。
それでは、国債とは関係なく、一般庶民や法人が銀行からお金を引き出した場合の変化を見てみます。預金からおろして、現金化しました。
庶民や法人の帳簿
資産 負債
銀行預金 ―$100
現金 +$100
銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ ―$100 お客様口座預金 ―$100
銀行が少し小さくなりました。資産も負債も両方とも減りました。とすると、銀行を仕切っている中央銀行は?
中央銀行の帳簿
資産 負債
市場に出回っているお金 + $100
リザーブ ―$100
銀行の資産のリザーブ勘定が減少したという事は中央銀行の負債のリザーブ勘定も連動して減りましたが、市場に出回っているお金はプラスの$100ですから増減相殺でmonetary base(マネーベース)には変化はありません。従って、銀行から預金者が現金をおろすと云うことはマネーベースには変化が起こらないということが説明出来たと思います。当然と思われる事ですが、これが方程式です。
Discount loan とは:
(割引ローン)
中央銀行が市中銀行に貸し出すローンです。ここでは$100、貸し出しとします。
中央銀行の帳簿
資産 負債
Discount loans +$100 リザーブ +$100
相手の銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 Discount loans +$100
そうすると中央銀行の負債勘定リザーブも同金額増加します。したがってマネー・ベースもそれだけ増加したわけです。逆も全く同じ事が起きます、無論(+)を(-)に置き換えるだけですが、それにより市場のマネー・ベースは小さくなるわけです。
Floatとは:
フロートの意味を説明します。
現在ではクレジットカードでの支払いが常識的になりましたがアメリカでは自分の小切手を現金代わりに発行します。一例を挙げますとAさんが自分の銀行に行き小切手を一枚書き、$100現金化したとします。そうすると銀行の帳簿は:
銀行の帳簿:
資産 負債
リザーブ ―$100 預金勘定 ―$100
ところが、中央銀行は銀行からの小切手をクレアーするときに、一旦、下記の仕訳を起こします。
中央銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100
帳簿がバランスをしていません。実際は下記の仕訳を起こさなければならないのですが:
資産 負債
市場現金 +$100 リザーブ勘定 ―$100
この$100だけ多くなっている期間をフロートと呼びます。この期間、マネーベースが間違って過剰に報告されることになります。同時にその取引銀行の口座残高も多く記帳されていることになります。同じようなことが米国財務省が市中銀行から預金を移行するときにも同じようなフロートが起きると云われています。言葉では難解な表現も図では理解が早いと考えます。
Multiple deposit creation とは:A Hat-trick
ようやく、この原稿の本論に入ります。
中央銀行がA銀行から国債を買い取りました。余分なリザーブが手に入ったことになります。A銀行は過剰リザーブのみ、貸し出しや投資に使えます。リザーブは金利を生みませんから、A銀行は本業の貸出先を探します。ここでは$100全額を過剰リザーブだったとします。
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 マイナス$100
リザーブ プラス $100
中央銀行の帳簿
資産 負債
国債 +$100 リザーブ + $100
ここでA銀行が顧客に貸し出しをします。銀行が貸し出しをするとき、銀行は先ずその貸出先の預金勘定を作ります。そこにお金を振り込み、そこから貸し出すと云うのがシナリオです。従って負債側に預金勘定が出来上がります。前にも指摘しましたように、プラスの預金勘定はマネー・サプライが増加したことになります。中央銀行ではなく、銀行が貸し出しをしたという行為がお金の供給を市場に作り出した事になります。
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 ー$100 預金勘定 +$100
リザーブ +$100
貸出金勘定 +$100
この時点で、このA銀行は余分のリザーブがありますから、さらなる貸し出しを考えますが、お金を借りた人はそれを使うために借りたわけですから、そのお金は物やサービスへと形を変え、それらを提供した人や法人の銀行にデポジット(振り込み)されるわけですから、結果、先のA銀行の帳簿は預金勘定は引き出され、:
A銀行の帳簿
資産 負債
国債 ―$100
貸出金勘定 +$100
ということになります。国債が貸し出し預金に姿を変えたのですが、最初を振り返ると、リザーブの増加は貸し出しを可能にさせ、さらに貸し出されたお金は次の銀行に振り込まれ、新たなるリザーブを創り出します。次の銀行をB銀行としますとB銀行の帳簿は:
B銀行の帳簿
資産 負債
リザーブ +$100 預金勘定 +$100
リザーブは金利を生みませんから、ここで又B銀行が貸し出しをしたとします。しかし規約に従い、10%は保留されなければなりませんから、
B銀行の帳簿
資産 負債
義務リザーブ + $10
超過リザーブ +$90 預金勘定 +$100
ここで又B銀行が貸し出しをします。
資産 負債
リザーブ +$90 預金勘定 +$90
この内訳は:
資産 負債
義務リザーブ + $9
貸し出し勘定 +$81 預金勘定 +$90
そしてC銀行:
資産 負債
リザーブ +$81 預金勘定 +$81
そして貸し出し:
資産 負債
義務リザーブ + $8.10
貸し出し勘定 +$72.90 預金勘定 +$81
$100で始まった預金勘定口座の残高は:
bank 預金勘定
A $100
B 90
C 81
D 72.90
計 $ 343.90
4銀行で約3.5倍と膨れあがりました。この現象をmultiple deposit creationと云います。
要するに100 + 100x0.90 + 100 x 0.90 x 0.90 + 100 x0.90x0.90x0.90 + + + + +=100x1/1- .0.90 = 100 x 1/0.10 = 100x10 =1,000
理論的には預金勘定の最終計は約$1,000ということになります。という事は預金勘定と一対一で対比する貸し出し勘定も最終の合計金額は$1,000であり、義務リザーブはその10%でありますから、合計は$100になります。この100を100兆とするならば、中央銀行がQEとして銀行から買い取った国際100兆円は、実際、市場では銀行から銀行を経て、1000兆円のお金が市場に流れることができるのです。何気なく報道される中央銀行の市場介入とは、まさに”hat trick"ではありませんか。
無論、この現象は貸し出しが連続的に次ぎから次ぎへの銀行に移行しているという理論に基づいての現象を示しているだけで、現実的には最初のA銀行又はB銀行で貸し出しはなく、預金勘定のmultipledeposit creationはそこで終わってしまうことになります。ただ、requiredリザーブが10%ということが$100を最終的には$1,000の預金勘定残高を理論的には生みうるということを知っておく価値はあると思います。この3年間、印刷され続けたお金の量は可能性としてはその10倍になりうるということです。無論、リザーブを10%とした条件ですが。
以上です。
By:上田 稔( ウエダミノル)、CPA, CGMA